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Top > Dialog > 【特別編02 】『Frost Flowers』を終えて │ 針山愛美/秋辺デボ

『Frost Flowers』を終えて
針山愛美/秋辺デボ

Dialog EX.02

HARIYAMA
EMI

バレエダンサー
一般社団法人イーアイアーツ代表理事
AwajiWorldBallet芸術監督

PRISM CO., LTD.

SHINTANI
NOBUYUKI

株式会社プリズム
代表取締役社長
新谷暢之

AKIBE
DEBO

アイヌ文化継承者/プロデューサー
秋辺デボ(秋辺日出男)

OVERVIEW

『さっぽろ雪まつり2024(第73回)』大通会場8丁目「雪のHTB広場」にて行われた、一夜限りのスペシャルコラボ・ダンスパフォーマンス『Frost Flowers』。このプロジェクトの翌日、興奮冷めやらぬ中、メインキャストの 針山愛美 さん、秋辺デボ さんのおふたりを迎えて行った対談企画。Dialog特別編としてお楽しみください。全3回です。

仲間との進化

新谷:

ここからはちょっと違うお話を。冒頭にお話しましたように、今回はご両者に女性の方々のご出演を依頼しました。愛美さんには拠点とされている淡路島でウクライナから日本に避難されているバレエダンサーとご活動されているということで、一緒にご出演いただければとお願いをしました。

世界の出来事や宗教、文化など色々なことをボーダレスにするイメージでこのプロジェクトもやっていますが、その要素を出しすぎたり色をつけすぎると違うものになってしまうおそれもあるので、探りながらお伺いしながらやっています。ウクライナの方々の元気な姿を見ていただきたいし、国を誇りに思っていることも皆さんに感じていただきたいという思いもありましたが、ご出演いただいた方々はどういった経緯でご参加いただいたんでしょうか。

針山愛美さん(センター)・ウクライナのバレエダンサーたち・若手ダンサー(手前)・新谷社長(奥)
針山:

まず、話が遡るのですが、私が初めてソビエトに行ったのは13歳。バレエの本場で、すごくいい意味でカルチャーショックを受けました。数年経ってソ連が崩壊していく最中、本当にいろんな方々に助けていただいて。私には人生と平行線で一緒にいてくれているバレエという存在がずっとあったから、今の自分がいると思っているんです。
ロシアを出てからは、アメリカ、ヨーロッパやキューバ、アジアなど世界中でで活動してきました。はじめて海外に行った時から、日本に帰ってきたら文化芸術や日本の素晴らしい歴史…例えば着物や所作を混じえながらバレエを配信したり敷居の高い一部のひとのためではなくもっとバレエを身近に感じてもらいたいと長年活動してきました。

そして2年前。突然ウクライナで起こった出来事で10代の経験がフラッシュバックして、これまでいろんな方に助けてもらって今の自分がいるので、今こうして私が日本にいる時だからこそ何かできないかなと考えたのが淡路島への誘致だったんです。急に始めたプロジェクトでも支援という訳でもなく、今回はまずは避難というかたちでダンサー以外の方も含めて9人いらっしゃっています。

新谷:

彼女たちは、愛美さんとこれまで一緒に活動していたわけではないんですよね?

針山:

はい。はじめて日本で出会いました。
ベルリン時代から信頼をしているおふたりであるウラジミル・マラーホフさんとヤーナ・サレンコさんに、助けを必要としていて日本で一緒に過ごしたいという方がいらっしゃったらとお話ししたところ、彼女らの来日が決定したんです。

新谷:

彼女たちは、愛美さんの活動にも驚きがあったということですよね。

針山:

今回のお話も、最初から「雪の上で」と伝えたら「ええ!?」ってなったかもしれないんですけど、それまでに段階があって「今日は神社で踊ります」とか、驚きながらも、だんだん私に訓練されて…という言い方はよくないかもしれないですけれど(笑)
創造性、インプロビゼーション(即興)、瞬間的なこともできるようになってきたんです。今回も「すごい!そんなところで踊れるの!」という感動と楽しみを伝えてくれましたね。今ではなにかを一緒につくり出そうという仲間になってきました。

「表現者」と「技術者」

新谷:

僕らの仕事でも「表現者」と「技術者」というタイプがいるのかなというのは感じます。技術者だと、決められたこと、演出的なことがピシッとできるという着地がありますが、やはりライブでやっていて、感動を生み出すグルーヴに乗せられるか乗せられないかは、「技術者」にとっての課題かもしれない。

そして、踊りの構成をどう決めていくかは僕はわからないので、演出を愛美さんとデボさんおふたりにお任せして今回やってみました。リハーサルで結構それぞれみんな意見が出てましたね。

前日リハーサルの様子
デボ:

針山さんたちはグループだと思ってたんですよ。ウクライナの方たちも、お弟子さんとか、そういう親密な関係の人たちがひと塊で来るんだとずっと思ってた。
それで練習とリハの場所に行ったらそうでもなくて、違う世界観を持ち寄ってきてるんだなと。
全く意見も違う様子が見て取れて、あんたが決めなさいよみたいな勢いで来るじゃない。
立ち位置まできっちり決めないとできません、みたいなやり取りをしてるのを、言葉はわかんなくても見ててわかるからさ。いや、お互いに等距離で散らばっていてよっていう話が「決めないとダメだよ」ってくるんだよね。なるほどなと。

それがまた面白かったの、じゃあ決めるよっていうね。ここは4組こっちは5組とか決めつけて。実は昔の演出って決めつけだったんですよね。でもそれだと、どこか人間味が薄れたり、面白みが減るマイナスの方が大きいことに気がついたから。自由にやるのは嫌なんだっていう人いっぱいいるんだけど、そこをあえてちょっと自由に動いてるなっていう方が、得るものが大きいものだから。一昨日はそんな感じがしたよね。

針山:

そうなんです。ベルリン国立バレエ団にいた時にもあったんですけど、そのダンサーのタイプ、性格によります。
例えば、白鳥の湖でばっちり揃えようとすると、線が引いてあって、それが土踏まずのところに来ないといけない。かかとになったら怒られるんです。それで手の高さも、目の高さがおでこになったら、もう次の日には外されるぐらいの勢いで、それはそれでやるんですけど、だんだんやっていくうちに、仕事ではないんですが…半分仕事みたいな、言われた通りにやるという。ここだったら自然が、風が吹いてきた…こう行きたいのに止まってなきゃいけないという自分と、そういう自由ができない人もいて。こう、言われたことをきっちりやる方が得意なタイプのね。

ウクライナから来ていて昨日参加した5人のなかで、ふたりはそういうタイプ。ひとりは言われたことに馴染むタイプだったので、それをわかりながら振り付けもしないといけない。

新谷:

今回のアイヌの踊り手さん方はどうでしたか。

デボ:

初めて殻を破ったんだよ、彼女たちは。

新谷:

え!本当ですか。

デボ:

そうなの。人との繋がりだよ、仲間同士も繋がって、それが大きな輪になって感動を呼ぶんだよってずっと言い続けてきて、それが昨日できた。

針山:

えー!

デボ:

以前もできる瞬間はあったけど、身についてないわけさ。よっぽどうまくいったらできるんだけど。 気が乗らんとできないとかさ、それがちゃんと昨日はできてたから良かったよね。

新谷:

僕、リハーサルの時にも不思議な光景を見てて。みんなで動きをやってたじゃないですか。ウクライナの方々とアイヌの踊り手の方々とが、コミュニケーションしてるんですよ。言葉は通じないんですけど、仲良く、こうしようああしようとやってるのを見て、すごく不思議な瞬間でしたね。

針山:

楽しそうでしたね。

デボ:

すごかったよね。
うん、やっぱり人間できるようになるんだよ(笑)

新谷:

同じジャンルというか、同じことを目指してやってきたところがあると、通じるものがあるんですよね。
僕も海外に行って仕事をすると、やっぱり技術的なことでの悩みや、使う機材のメリット、表現の仕方って、言葉が通じなくてもお互いの言葉で喋りながら通じ合うことは結構あります。

デボ:

先住民族同士ってもっと柔らかくコミュニケーションが取れてコラボしやすいのさ。なんか自然に最も密着した生き方と信仰心があるじゃない。インディオとかさ、先住民の人たち。その辺ではアイヌって馴染みやすいからコミュニケーションが取りやすいんだけど、バレエの人たちとかなんかきっちりこう楽譜があって、修行に修行を積んで完璧を目指して出来上がった人たちって、自然人と解離してんだよね。で、何のために修行してんのかっていったら自然人になるために修行してきたはずなのに、設えたステージでないと動けないっていう副産物が出てくるわけで。

その戦いが面白くて、話が脱線して申し訳ないけど、アイヌの踊りに明日インディオから代表をひとり出して一緒に踊るぞと。
それがふたりの女性に惚れられて取り合いされる役なんだ。それを初日やってみようと。
で、明日は現地だから、現地のインディオにちょっとひとり代表出せって言ったの。そしたらその夜中にインディオ同士で喧嘩してんの。誰が一番いい男かで揉めちゃって。(笑)朝までかかって、ひとりここに青タンつくって出てきたわけよ、俺が一番だと。微笑ましかったよね。
それでちゃんとステージでコラボできてとっても楽しかったんだけども。砕けたコラボもあるし、きちっと仕上げるコラボもあるっていうのが、面白いよね。
だから、そういう経験ができたのは、うちのチームのみんなにはすごく新鮮で良かったんじゃないかな。

針山:

私にとっても信じられない、奇跡みたいな光景でした。こんなことが起こるんだって。

デボ:

それで申し訳ないけど、やっぱりウクライナから来た人たちはどこか影があるというか、背負ったものの辛さとか重い運命ってあるよねと思って。
そんなの全部忘れて踊れなんて思わないしさ。それでややもするとさ、 自分たちだけこの安全な日本に来て踊ってていいんだろうかとか、自分たちだけ楽しんでいいのかなって、疑問を持ちつつ来たなって俺は見てて思って。

針山:

さすがです、言ってます。

デボ:

でもそこはね、人間って癒しが必要なんです。そこだけ癒せればいいなという感覚で俺はいたんだ。みんなもそれは感じてた。だから、完全にスパッと全部忘れて舞台に集中しようっていうのは無理なんだよね。でも、それであってもさ、プリズムの皆さんが用意してくれたステージで、いいものを一緒にできたあの瞬間ってのは、本当に彼女たちにとっても、俺たちにとっても、よかったな。

CONCLUSION

【02】はここまでとなります。

【01】はコチラ
【03】はコチラ
※全3回

動画はコチラから

Photo: 株式会社 BRONSON

THE FRIEND


Ballet Dancer

HARIYAMA EMI

バレエダンサー
一般社団法人イーアイアーツ代表理事
AwajiWorldBallet芸術監督

HISTORY

ボリショイバレエ学校を首席で卒業。モスクワ音楽劇場バレエ団、エッセンバレエ団(ドイツ)、米国バレエインターナショナル、クリーブランド・サンホセバレエ団、ボストンバレエ団でプリンシパルとして、ウラジーミル・マラーホフ率いるベルリン国立バレエ団で10年間活躍。レニングラード国立バレエに招かれ『白鳥の湖』と『ジゼル』に主演、大成功を収める。ウランウデ国立バレエ団で『白鳥の湖』と『ジゼル』に客演主演した際、大臣から表彰を受ける。モスクワ国際バレエコンクールで特別賞、ニューヨーク国際バレエコンクールで銅メダル(日本人初)、パリインターナショナルコンクール銀メダル

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